もしかして気晴らし?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


随分な雨催いの日が続く六月だが、
晴れ間が見えれば、
そのまま真夏を匂わせる陽が容赦なく照りつける。
同じセーラー服でも、
白基調の夏服はそれは軽やかな印象で。
短い袖からしなやかな腕が伸び、
カバンを振り回すよにして くるんと回れば、
生地も軽くなったスカートが
ヒラリとわずかほど開いて躍り。
すっかりと夏の色をあぶり出すためのような強い陽が、
白い肩口に跳ね返り、細い肩の稜線を滲ませる。
暑くなったせいだろう、髪を結ぶ子も増えて。
華奢な首条が濃色の襟に映え、
頭の上、高々と束ねた中からこぼれた後れ毛が、
細いうなじへかかるのがまた…、

 「かかるのが? また?」

  「う……。」

 「どうされましたか?」

駅に間近い個人病院の屋上。
シーツや布団カバー、お仕着せの寝間着などは業者回しにしているらしいが、
長期入院している個人の洗濯物が大小いろいろはためく中で、
この暑いのにコンクリの上へ腹ばいになり、
長レンズ装着の結構本格的なカメラを構えていた誰かさん。
誰も来るまいと、それでも一応は下調べをしたその上で、
此処が まずは無人となろう朝食の時間を狙って足を運び。
狙った構図にファインダーを合わせると、
あとは狙った被写体が通らぬか、今か今かと待っておいでだったらしいが。

 「こっちから見えるのなら向こうからも見えるってのが理屈でしょうに。
  そこはうっかりしてたんでしょうか。」

カメラに張り付けた顔が剥がせないのは、
何か冷たいものが頬へと当てられているからで。
声は頭上からするから立ったまま、
それでこんな距離を届かせるものである以上、
金属の棒か、下手すりゃ薙刀や太刀という刃物かも知れぬと
最悪の場合を考えてその身を固まらせているおじさまへ、

 「ヤケになって暴れないのはいい心掛けですね。」
 「そうそう。
  覗きや盗撮なら迷惑防止条例違反で済みますが、
  抵抗したその瞬間から、
  暴行罪か傷害罪が加味されますからね。」

よしよしと言い聞かせるように、
頬に当たっていたものがひたひたと 軽く浮いては戻りをし、
視野のぎりぎり端にあったそれが、光を受けたかギラリと光った。

 “ひいぃぃ〜〜〜っ。”

屋上の縁間際をぐるりと巡る、塗装がはげかかった柵の下縁、
寝そべった体勢から、望遠のレンズをそこへ差し入れて、
高名な女学園の通学風景を隠し撮りしようとしていた、
微妙なラインでプロらしきカメラマンが、
足首と腰回りを、特殊な粘着材でセメントへ接着されて見つかったのは、
それからほんの小半時後のこと。
剥離材は此処ですと、ごていねいにも男の背中へ貼り紙がされてあり、
その紙の裏に、屋上の隅の物置への図が描かれてあって。

  そうかと思えば、

大きく窓を開けて、
何の曲だか低音を聞かせ過ぎてメインラインが埋まっているよな大音量で、
ボボンボ、ズンドン、どがしゃか・ちゃかちゃか。
作った人も迷惑しそうな聴き方をしている
シャコタンのセダンが、コンビニ前に停車しているのへと、

 「………ああ"?」

その開けっ放しの窓辺へと、人影が指したので、
文句があんのか、おい、このやろがを、
そんな短く凝縮させたサングラスのお兄さんへ、

 「ん。」

こちらも短い言いようでは負けてない。
軽やかなクセの躍る金髪に、透き通るような白い肌。
すんなりと伸びた四肢は、
よくあるタイプのセーラー服を、
素晴らしくスタイリッシュな着こなしに見せており。
袖ぐりが大きすぎるのは切ない余情、
襟足がか細いのは可憐な純情匂わせる趣きと、
意味深な麗しさを総身にまとう、
どこぞかの映画の一シーンから抜け出たような、
きりりと冴えた美貌の美少女が、
先の短い一言つきで、ほれと足元へ落としたのが、

 「え? ………っ、マサ? アツシ?
  どしたんだお前ら、ああ"っ?!」

実は彼らの帰りを待っておりました、
追っ手がかかってたらばすぐにも出せるよう、
人が寄らぬように、睨みを利かせてましたという、
何やら曰くがありすぎなお兄さん。
どしたんだという呼びかけに応じぬ仲間を、
それは無造作に ほれと置いてったお嬢さんが
淡々と立ち去る背中を睨みつけ、

 「待てや、ごらぁっ!」

車から降り立つと、いかにも堂に入った怒号を上げる。
あんなか細い子がどうやって、
意識もない男を二人も連れて来たんだと、
その辺を考えれば、関わらない方が利口だったが。
よほどのこと予定から外れていた顛末だったか、
相当に頭に血が昇っていたらしいから、
言って聴かせたとて聞こえなかったことだろし、

 線路をくぐる格好の
 ある意味 高架下になってた連絡通路で、
 二人がかりで大人しそうな人を挟み打ちにし、
 持って来たのか出さないとお前の娘が怖い目に遭うぞと、
 穏やかならない脅しをかけてたやりとりへ

ぶんっと風切る音がして。
快速でも来たかと、気にも留めずに
目当てのおじさんを吊るし上げてた恐持てのお兄さん、
せめて何の音だとそっちを見てりゃあ、
逃げる隙くらいはあったかも。
外の明るさが強いのに拮抗し、それは薄暗い連絡道の中、
かつこつかつこつと、やや難い靴音が反響しながら駆けて来て。
え?っと思ったのと同時、
標的を押し付けての壁へ寄ってたその背後、
ひゅんっと通過した何かが

 脾腹へどごぉっと
 細長いものでの薙ぎ払い一閃を
 容赦のない痛さで 置き土産してったもんだから

 「ぐあっ!」
 「ア、アツシっ!?」

膝から落ちた困ったさんを支えてたお仲間が、
通り過ぎた先で立ち尽くす影に気がついて。
ひぃいいっっと情けない悲鳴を上げたのへ、
やはり かつこつかつこつと駆け寄って、

 「顔を覚えておけ。」

どっかで逢ったら逃げればいいさと、
続いた全部が届いたかどうか。
女学園に娘さんや妹さんが通う、
割りと一般家庭のお父さんやお兄さんを。
事情があって校則違反の車での登校をしたところとか、
隠し撮りの中に見繕い、
あることないこと言い掛かり、
娘の無事を保障して欲しけりゃ金を出せと、
何とも目茶苦茶な脅しをかけてたの、
たまたま聴いちゃったのが、

 「ヘイさんだったのが身の不幸だわねぇ。」
 「あ〜。そういう言い方しますか、シチさんたら。」

善良なおじさま相手に、
しょむない“たかり”をしようとしていた大馬鹿者ら。
カメラ担当をヌイヌイの刑に処してから、(ば〜い わんぴーす)
カツアゲ担当&逃走担当のチンピラどもを、
紅ばらさんがそれは鮮やかな殴打一閃で片付けて。

 「ホントだったら私一人で、
  スマホへのクラック攻撃で振り回してやったのに。」

お互いの連絡回線へ混線してやり、
掛けた先が110番にしかならないようにしてやったり、
車のカーナビへ侵入して、
警察のネズミ捕りの検問があるとこへ誘導しまくってやったのにと。
それで楽しむつもりだったところを、

 「そんなに時間をかけてやるなんて贅沢な、なんて言い出して。
  挙句に、自分と久蔵殿も混ぜろだなんて。」

あ、久蔵殿、会話は録音したでしょね。……うんうん上出来。
じゃあこれを熨斗の代わりに貼っつけて。
ええ、佐伯さんを呼び出して、引き取ってもらいましょうね、と。
何とも凶悪なお中元の“梱包”に入るお嬢様たち。
実はといや、実力テストが催されたばかりで
ちょみっと むしゃくしゃしていたものだから。
天誅出来そなネタじゃない、それと、
ほぼ八割方、鬱憤晴らし目的で 割り込んだだけだったりし。
無防備な子羊たちが通う女学園は、
今日も今日とて、それは平和にその1日を始めんとしていたのでありました。


  ……つか、あんたら遅刻だぞ。(苦笑)






    〜Fine〜  14.06.13.


  *相変わらずにお元気なお嬢様たちで、
   多少の悪党相手なら これだもの、
   警備とかランクアップする必要なんてないないってもんで。

   「だがなあ ヘイさんや。」
   「そうだぞ、久蔵、いつかは怪我をするやも知れぬ。」
   「それともそんなに、儂らからの説教を受けたいか、お主ら。」

   今日も今日とて、
   お説教のためだけに集められたおじさんたちも
   この暑いのにご苦労様です。(う〜ん)

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